『水を縫う』のあらすじは? 読書感想文 課題図書2021高校の部 寺地はるなのおすすめの本・新刊は? 

今回は、人気の小説家、寺地はるなさんのオススメの本について書きたいと思います。

2004年のデビュー以来、数々の名作を世に送り出しておられる寺地はるなさん。

突飛な世界は出てこないのですが、日常の中のささやかな場面を新たな切り口で、ハッと気づかされるテーマと優しい目線で描いておられる作家さんかなと思います。

今回は、今年の高等学校の部の課題図書にも選ばれた『水を縫う』を中心に、寺地さんのおすすめの作品についてを書いていきたいと思います。

『水を縫う』のあらすじ・感想は? 読書感想文 2021年の課題図書

『水を縫う』は、2020年5月に集英社より発売されました。

とにかく読みやすく情景描写もさりげなく、物語の最初のページから、自分がまるで、そこにいるかのように引き込まれていきます。

『水を縫う』は、主人公、松岡清澄の一家の物語。松岡清澄は、高校一年生。物語は、清澄が大阪・寝屋川にある高校に入学するところから、始まります。

清澄の一家は、祖母、松岡文枝、市役所勤務の母 松岡さつ子、会社員の姉の水青(みお)の四人で、祖父が建てた木造二階建ての家に暮らしています。祖父は、清澄が生まれる直前に亡くなっています。

清澄の両親は、清澄が一歳の時に離婚しました。清澄にとって、父は外で会う人。父の代わりに、友人である黒田さんが会いにくることもあります

『水を縫う』は、第5章まであり、第1章 「みなも」は、清澄の視点から見たお話です。

清澄は、刺繍が大好きな男の子。でも刺繍が好きということは、男らしくないのか、「普通」とは、どういうことなのだろうと、疑問を持っています。中学の時も、家庭科の授業の際に、清澄が調理や裁縫など、いわゆる家事ができることを「女子力が高すぎだ」と、クラスの女の子から、からかわれたこともありました。

清澄の家庭では、家族で家事を分担してやっていくのが当たり前なので、単なるスキルでしかないというのに。

家の中でも、母から、普通の男の子のようになって欲しいと思われていたり、祖母からは、友達がいないことを心配されているのが伝わってきます。

高校に入ってすぐのクラスでの自己紹介の時に、余計なことは言うまいと思いながらも、「縫い物が好きなので、手芸部に入ろうかと思う」と言ってしまいます。

同じ中学から来た女子、高杉くるみが「石が好き」と自己紹介で話し、クラスメートから、少し変わっていると思われているのを見た清澄は、彼女のことを、カッコいいと思います。また、人懐っこいクラスメートの宮多と、友達になっていきます。

そして、清澄は、華やかなウエディングドレスを着たくないという姉のために、自分がウエディングドレスを縫うことを決意します。

全編を通して、「普通」ってなんだろうということが問いかけられています。

この本が、2021年の課題図書に選ばれたことがわかるような気がします。

第2章での視点は、姉の水青(みお)になります。結婚を控えている水青。女なのに「かわいい」を敬遠してしまうことに悩んでいる水青。水青が体験した出来事。真面目で一生懸命生きているのに、不器用なところがある水青。読んでいて、ちょっと辛くなるシーンもありましたが、それを乗り越えていく、水青にエールを送りたくなるような、そして、清澄との姉弟の絆もいいなと思ってしまいました。

第3章の視点は、母のさつ子。夫との離婚後は、清澄、水青を育ててきましたが、母親なのに、と、愛情について、悩むさつ子の気持ちが描かれています。

第4章は、『プールサイドの犬』。こちらは、清澄のおばあちゃんの文枝の視点。文枝の70年近く前の子供の頃の記憶から始まります。

第5章は、『しずかな湖畔の』 父や黒田さんのことが描かれます。

第6章『流れる水は淀まない』では、再び、清澄の視点からの物語です。

高校の課題図書ではありますが、考えが固まった大人世代にこそ、読んで欲しい一冊です。

私の住んでいる地域の図書館では、ティーンのコーナーに置かれていたこともあり、学校のシーンも多いので、小学校高学年ぐらいから、読めるのではないでしょうか。

学生の方には、清澄の学校生活のシーン、20〜30代の方には、姉の水青、また、さつ子や、父や黒田、そして、祖母の視点の話もあるので、どの世代の方が読んでも共感できる点があると思います。

ぜひ、幅広い世代に手に取っていただきたい一冊です。




寺地はるなさんのおすすめの作品は? 新刊は?

2014年のデビューから、数々の作品を世に送り出されている寺地はるなさん。

最新刊は、『ガラスの海を渡る船』は、2021年9月13日にPHP文庫から、単行本での発売が予定されています。長編です。

こちらは、ガラス工房を営む兄と妹の物語です。

とても美しいタイトルで、どんな話なのか、今から楽しみですね。

さまざまな作品を手がけられている寺地はるなさんですが、アンソロジーとして『リアルプリンセス』の中の1作も執筆しておられます。

長編を読むのが苦手な人は、まずは、こちらの短編から読んでみるのは、いかがでしょうか?

『リアルプリンセス』は、日本や世界中で読み継がれているプリンセスを現代版にしたら、どうなるかという短編集です。

このアンソロジーの顔ぶれが超豪華で、寺地はるなさんの他にも、飛鳥井千砂さん、島本理生さん、加藤千恵さん、藤岡陽子さん、大山淳子さんという大人気の女流作家さんたちが書かれているのですよ。

寺地はるなさんが手がけられたのは、『鉢かづき姫』を題材とした『鍋かぶり』。古典の御伽草子をモチーフにされているので、高校生の方々は、課題図書以外にもこちらの話も古典の勉強の参考になると思いますよ。

また、『リアルプリンセス』は、NHK総合で、大山淳子さんの『夢のあと』と、島本理生さんの『ラプンツェルの思い出』がそれぞれテレビドラマ化。広末涼子さんや葵わかなさんが主演をつとめられました。

寺地はるなさんや、飛鳥井千砂さん、藤岡陽子さん、加藤千恵さんの作品もぜひ、映像化された作品を見てみたいですね。NHKで、テレビドラマの『リアルプリンセス』の第二弾を作っていただきたいです。




寺地はるなさんのプロフィール

寺地はるなさんは、1977年生まれで、佐賀県唐津市の出身です。

結婚後、大阪に転居されました。主婦業と会社員という二足のわらじを履きこなし、太宰治賞や日本ラブストーリー&エンターテイメント大賞の最終候補などにもなりながら、2004年『ビオレタ』で、第4回ポプラ社小説新人賞を受賞して、デビューを果たされます。

代表作には、『どうしてわたしはあの子じゃないの』『雨夜の星たち』『声のありか』などがあります。

そして、ご自身の趣味は、刺繍だそうです。

きっと素敵な作品を作り上げられるのでしょうね。

この夏は、『水を縫う』をはじめとして、寺地はるなさんの小説を読んで過ごされるのは、いかがでしょうか。




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